日本経済概説(2010年12月)
1.景気の現状:製造業を中心に弱含み
・景気は夏ごろから弱含み。主因は製造業。鉱工業生産は10月まで
5カ月連続の前月比減少。買い替え補助終了により国内の自動車
販売が大幅減少に転じたほか、輸出も弱含み傾向が強まっている
ことが背景。
・一方、内需も本格回復に至らず、「底ばい」状態が持続。機械受
注・建築着工は緩やかな増勢が続いているものの、依然として
2008年前半までの水準を大きく下回る状態。就業者数や現金給与
総額も回復ペースは緩慢。
2.景気見通し:減速が一段と明確化
・①輸出の低迷持続、②景気刺激策の反動減、③脆弱な内需の回復
力、の3点を背景に、「足踏み」状態が続く見通し。
・輸出は、海外での景気刺激策の効果一巡に伴い、世界経済の拡大
ペースに見合った巡航速度に減速。こうしたなか、当面は、アジ
ア諸国での生産調整の動き、円高による輸出競争力の低下などか
ら、一進一退の動きが続く見込み。これまで景気を下支えしてき
た耐久財購入刺激策の効果もピークアウト。
・一方、国内民需も、大幅なGDPギャップが残るなか、回復感に
乏しい状態が持続。とりわけ、企業部門の厳しさが長引く見通
し。設備過剰感がなかなか解消されないため、設備投資の回復
ペースは緩慢。所得環境の回復も遅れるため、個人消費や住宅投
資の本格回復も期待薄。
・2011年入り後は、テレビの駆け込み需要の反動減が実質GDPを
大きく下押し。一方、9月以降に打ち出された経済対策による押
し上げ効果は限定的。この結果、2011年度の実質GDP成長率
は、個人消費の大幅減少を主因に、+0.2%とゼロ近くにまで失
速する見通し。
・デフレ傾向も鮮明に。コアCPI前年比は、資源価格要因の剥落
でマイナス幅は縮小するものの、内需低迷を主因とするデフレ圧
力が持続するため、マイナス基調が長期化する見通し。
3.11月の金融政策・金利動向
【金融政策】
・日銀は4~5日の定例会合で、ETF、J-REITの買い入れに関
する基本要領を決定。12月中旬から実施の運びに。
・白川総裁は会合後の記者会見で、米国の追加金融緩和(QE2)につ
いても言及。FRBに比べて日銀の資産買い入れ規模は小さいのでは
ないかとの指摘に対しては、「ETFやJ-REITのリスク量は、
米5年国債の約13倍に相当する」と説明するなど、表面的な買入金額
の比較をけん制。リスク資産の買い入れ自体が強力な金融緩和効果を
有するとの考えを強調。
【長期金利】
・長期金利(新発10年債利回り)は、米長期金利に連動する格好で上昇。
26日には約2ヵ月半ぶりの水準である1.19%を記録。
4.金融政策・金利見通し
【金融政策】
・日銀は、当面、これまでに決定した包括金融緩和策の効果を見極める
公算。先行きも状況に応じて、基金の資産買い入れ枠拡充などの追加
措置を検討する可能性あり。
【長期金利】
・長期金利は、米長期金利に連動した上昇が短期的に続く可能性あり。
・もっとも、米国では▲6%ものGDPギャップが残るなか、一本調子
の長期金利上昇が続く公算は小さく、わが国金利の上昇余地も限られ
る見込み。
・加えて、①内外景気の先行き懸念の残存、②時間軸の明確化を受けた
債券買い安心感、などが金利低下圧力として作用することから、長期
金利が大幅かつ一方的に上昇する可能性は小さく、1%前後の低水準
での推移が長期化する見通し