昨今の株式相場は景気減速の実体とはかけ離れて、政策による後押しを受けて過熱してきています。 株式取引においてはアノマリーやインディケーターを用いて取引をしている投資家も多数いますが、そのような取引が失敗する原因について自らのエビデンスをもとに循環経済学の視点から論考します。

 まず、株式相場には秋に安く春に高いというアノマリーがありますが、これはあくまでも過去の平均をとった上での統計的な平均値です。実際に2010年の秋に株式市場は底を付け、2011年の春に向けて上昇していくように見えました。ラリーウィリアムズという米国の著名トレーダーは2011年の2月に日本株を買って7月に売却することを推奨しました。しかし、実際には株式相場は2月にピークを付け、3月の大震災で暴落しました。多額の未回収金を抱えた証券会社の中には、証券業務を廃業する会社が出てきました。事業会社にも多大な影響が出て、電機メーカー数社で計1兆円を優に超える最終赤字、日本国の貿易赤字への伏線となりました。震災以降2011年の秋まで株価の下落が続きました。

 このような中では、保守的な運用を行っていた投資家以外は、ほとんどが多額の損失を抱えることとなりました。サービス業中心となる今後の日本においては、国民の金融リテラシーの向上、優良な海外金融資産の増大による所得収支の向上が不可欠です。大英帝国が崩壊して凋落した後に安定をたどった英国においては、北海油田の発見もありますが、金融業が国際優位性を保ったがゆえにデフォルトに至らずに済んだといっても過言ではありません。イギリスは、中東等からの資金を集めていますが、それはひとえに、マンフィナンシャルを始めたとする優れた資産運用会社の存在によるところが大きいのです。本論考は、国民の投資技術の向上を図り、結果として日本国の国富の増大に資することを目的とします。

 では、インディケーターを用いた取引の失敗例を考えてみます。次のチャート図は東証二部の証券会社であるOAKキャピタルの株価推移を示しています。インディケーターはトムデマークインディケーターです。週足図を見ればわかるとおり、2010年10月頃にTDコンボ(ダークマゼンタの縦線)、同年11月頃にTDシーケンシャルのカウントダウンのタイプA(ブルーの点)、タイプB(ブルーの縦線)が完了しています。そこで私は、赤矢印の始点でロングポジションを構築し、赤矢印の終点、すなわち震災後のストップ安で追証となり売却しました。当初のエントリーは成功したものの結果として損失を被ることとりました。
 週足図をよく見ると、2011年2月頃に TDシーケンシャルのカウントダウンのタイプB(ブルーの縦線)がカウント21で最終的に完了しています。 このことから、私は既に大底を迎えたので急落はないだろうと考えていました。
 ただ、このエントリーにはロスカットポイントがあります。カウントが完了した足の安値の下に、足の実体分の幅をとってロスカットポイントを作成しました。震災の前の週にこのロスカットポイントを下回り、どうするか迷っているところ震災が来て、大きな損失を抱えることとなりました。
 インディケーターの情報のみをもとにトレードしたため、大きく失敗することとなりました。投資とは、木を見て森を見なければ成功しません。チャート図をみればわかるとおり、この銘柄は2010年4月にピークを付けています。このピークは正に、循環経済学の古典であるキチンサイクルのピークなのです。現在の40ヵ月のキチンサイクルは概ねリーマンショック後の2008年10月から翌年3月を起点としていますから、単純にサイクルがスパンの真ん中でベクトルを変えるとするならば、保守的にみると、 2008年10月の20ヶ月後の2010年の6月、楽観的にみても2009年3月の20ヶ月後の2010年の12月以降は短期サイクルのベクトルが下に向いていると考えるべきなのです。
 この短期サイクルはもちろんより大きなサイクルに従います。より大きなサイクルであるジュグラーサイクルは現在下向きです。更に大きなクズネッツサイクルも下向きです。更に大きなコンドラチェフサイクルは、実物面からみれば、底打ちしたばかりです。更に大きなヘゲモニーサイクル、人口サイクルは、日本の場合は下向きです。このような厳しい状況を考えるならば、本来インディケーターにのっとりロングするべきではなかったのです。
 仮に私が、リタイアする年齢を迎えて時間ができたらば、循環経済学を体系的にまとめて、各循環と複合循環、そして各経済指標の相互連関について著すこととなりますが、その時期はかなり先の話になりますので、ここで循環経済学の用語に関する詳しい説明は省略させていただきます。

 
OAKキャピタル日足
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OAKキャピタル週足 
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 では次に、今回のキチンサイクルがOAKキャピタルの図にどのように表れているか全体図で確認します。下記に全体図を示します。(上図は週足、下図は月足) 確かに、全体図で見ても2010年の後半に底を示すシグナルが出ていることから、アノマリーを利用して2011年の春先までロングポジションで問題ないと考えがちです。しかし、実際にはこのようなサイクルの下降局面では、一切ロングポジションを構築すべきではないのです。
 もちろん人口動態が上向きの新興国等においては、キチンサイクルが20ヵ月経過後も35ヵ月ぐらいまではひたすらブル相場が続くということは珍しくありません。実際に本邦でも、1949年から1989年の株式相場においてはこのような新興国型の相場がデファクトスタンダードでした。しかしその後、1990年を境に日本経済に構造変化が起こり、株価の暴落が縄文不況への扉を開いたのでした。では、このような中で我々はどのような戦略を構築し、マーケットからアルファ、ベータを勝ち取っていけばよいのでしょうか。


OAK2
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 次に、エルピーダーメモリの日足図、週足図を示します。エルピーダメモリですが2月14日に継続企業の前提に関する疑義が訂正されたことによりストップ安をつけました。しかし、日足図のデマークインディケーターはこの日にTDシーケンシャルのタイプBが最終的なカウントダウンを終えています。また、週足図を見ますと、このストップ安をつけた週に同じく TDシーケンシャルのタイプBが最終的なカウントダウンを終えています。 
 インディケーターの感度が高くなる日足図からですと底かどうか判別がつきませんが、インディケーターの感度が落ちる週足図からですと、もうそろそろ反発がある時期だと読めます。シーケンシャルのタイプAとタイプBが同時に発生していることもその判断の根拠です。一般的にインディケーターは多くのシグナルが同時に発生するときほど、その確実性が高まります。先ほどのOAKキャピタルの週足図を見てもわかるととおり、一時的な反発があったのはシーケンシャルのタイプAとタイプBが同時発生した時です。しかし、この情報からだけでは、本当に底を打って反発していくのかはわかりません。正に森を見ないでインディケーターという木だけ見ている状態です。

ELP DAY
ELP W PO


 では、森を確認してみます。下記にエルピーダーメモリの週足図、月足図を示します。期間は今回のキチンサイクルの始点からとっています。まず、OAKキャピタルと同様に、2010年秋にロングポジションをとって震災後にポジションをエグジットした場合どうなっているか確認します。下図の赤矢印がポジション構築の期間ですが、損失にはなっていないことがわかります。
 この理由は、証券経済学の観点から理論的に説明を行うことができます。一般的に景気に対する感応度は、製造業より証券業の方が大きいのです。証券業の株価は、キチンサイクルの上昇期には大きく感応して上昇します。ギャンの理論によりますと、相場における価格と時間は均衡しますから、上昇が大きいほど上昇期間は短くなります。別の視点から考えれば、サイクルを支配する上位サイクルが下向きのため、この下向きベクトルに影響を受けていち早く下落を開始することとなります。上位サイクルが上向きの時には、サイクルはライトトランスレーションを起こし、下向きの時にはレフトトランスレーションを起こします。そして、サイクルのベクトルが下向きに変わりますと、証券業は景気感応的ですので平均より大きな下落を経験することとなります。このような理論的な根拠により、2010年の秋に構築したエルピーダ株のロングポジションがOAKキャピタルに比べて優位であることの説明がつくのです。
 ではもう一度OAKキャピタルのチャート図を見てください。2012年冬に再度底を示すデマークインディケーターがシグナリングしています。現在キチンサイクル下落の最終局面であると考えられるため、シグナリング後に株価が噴き上げていますが、サイクルの下落ベクトルに感応的であることからすぐに上値を消してしまっています。
 一方、よりサイクルの下落に感応的でないエルピーダはどうでしょうか。週足で見ますと、切り下げる下値の幅を徐々に切り詰めながら、底のシグナリングが最終発生した局面です。少なくとも今後の見通しにおいては、OAKキャピタルよりかは下落しないことが予想できます。また、下値が煮詰まってきて、ボラティリティが低下していることもわかります。このようなときには売りが尽き、一気に噴き上げることが多いものです。
 今回のキチンサイクルは例年とおり春先までは一時的な過熱により持ちこたえるものの、夏場以降最終的な下落局面を迎えると考えております。ですから、期間限定であれば、エルピーダをロングしても問題ないと考えています。
 ただし、倒産等のイベントリスクは当然にありますから、そのようなリスクを承知の上で投資すべきでしょう。循環経済学とは、自然の摂理を探求する経済学なのです。物事の始まりは、最盛期を迎えた後に、必ず終わりがあります。恒星も誕生後は赤く太陽のように燃え盛りますが、巨大化後は白色矮星となり、しぼんで縮んでいきます。日本の人口サイクルも団塊の世代をピークに下落に転じています。そして、日経平均株価もこのような人口サイクルの影響をうけて、下落に転じ2012年までたどり着いたのです。現在、見えているキチンサイクルもいずれ終わりを迎えます。終わりを迎える国があれば、新しく始まりを迎える国もあります。終わりを迎える国から見ると、これから最盛期を迎える上海の人々は輝いて見えますが、その輝きは日本にもかつてあったのです。そしてこれからも、現在の戦後レジームが消え去れば、また新しい輝きがやってくるのです。現在の苦境だけを見るというのは、正に木を見て森を見ずです。森を見て良識ある行動、胆識ある行動を我々日本人は取っていきたいものです。


ELP W CYCLE
ELP M PO

【TDシーケンシャルについて】
 TDシーケンシャルは非常に難解ですが、とても有用なツールです。トレードステーションで用いているTDシーケンシャルのEasy Languageプログラムコードについては、人数限定かつ有料で下記で公開しています。

TDシーケンシャルのプログラムコード(Easy language)